「・・・で」



おもむろに腕を組み、椅子に寄り掛かった綱手様が、じろりと私達を睥睨する。



「お前達は現在三人だ。あと一人誰を補充させるか、シズネに大至急当たらせ――

「そんなのいらねってばよ!」



噛み付きそうな勢いで、ナルトが割って入った。



「オレ達三人だけで十分だ!もう一人探す暇あんなら、さっさと出発させてくれっ!」

「我儘を言うな」

「我儘なんかじゃねえ!臨機応変ってもんだろ!」

「なにが臨機応変だ。大した経験もない奴が大口叩くんじゃないよ!」

「オレってば、エロ仙人やカカシ先生からすっげぇ術いくつも教わってんだ!そこいらの奴に、そうそう負ける訳がねぇってばよ!だからさっさと――

「ふん・・・。未だに下忍風情で、随分な自信家だね」

「う、うっせーってばよ!下忍風情で悪かったなあ・・・!だ、大体、オレが中忍になれねーの、全部ばあちゃんの仕業じゃねーか!」

「なんでアタシの仕業なんだよ!?」

「オレがエロ仙人と出掛けてる時ばっか見計らって、中忍試験やってるくせによぉー!」

「試験の日取りは前から決まっている!そもそも、試験間際にヒョコヒョコ自来也にくっ付いていくお前が悪いんじゃないか!」

「断れる訳ねーじゃん!大事な修行なんだから!」

「なら文句を言うな」

「文句言ってんの、ばあちゃんの方だろ!?・・・ったく、これだから行かず後家ババァのヒステリーは堪まんねーって、エロ仙人が――

「あんだとぉぉーー!?もうイッペン言ってみやがれ、このクソガキィィ!」

「おーおー何回でも言ってやるってばよ!この大年増の皺くちゃヒステ――

「ちょ、ちょっとナルトォォ・・・!少しは言葉を慎みなさいよ馬鹿っ!」

「ま、まあまあ、二人とも落ち着いて・・・」



見兼ねたカカシ先生と私が、大慌てで仲裁に入る。

似た者同士のこの二人、仲が良いんだか悪いんだか・・・。

フンフンと鼻息を荒くして激昂覚めやらない二人をなんとか引き離し、「それで、メンバーの補充の件は・・・」 と話の軌道を修正に掛かった。



「あ、ああ・・・。だから今、手の空いてる優秀な忍をリストアップするよう、シズネに――

「だーからそれはノーサンキューって、さっきから言ってんのによー!頭だけじゃなく耳まで耄碌しちまっ・・・・・・うがっ!」

「す、すみません師匠!後で私からよぉーく言って聞かせときますから、平に・・・平にご容赦をーっ!」



ナルトの鳩尾にクリーンパンチを一発埋め込み、顔面蒼白になりながら、ひたすら頭を下げ続けた。

あああ・・・、もうナルトの大馬鹿・・・!

師匠に『その手』の話題は、巨大核ミサイルクラスの大地雷って事知らないのか・・・。

綱手様の本当の恐ろしさを知ってもらうためにも、後で、医療班で語り継がれている“伝説”を、逐一教えてやる・・・。

なんだか、任務に行く前からほとほと疲れ果ててしまった。

それに気付いたカカシ先生が、哀れんだように緩々と首を振っている。

「疲れるだけ無駄だ。諦めろ」 って事ですか・・・。

そう言われても・・・、ねえ、カカシ先生・・・。



「いい加減にしろ、ナルト」

「でも・・・でも、カカシ先生!」

「忍の基本は四人小隊だって事くらい知らないガキじゃないだろうに。アカデミー卒業して何年経つんだよ」

「でも、そんな事してる間に、せっかくのチャンスが・・・!」



「今しか・・・今しかねぇのに・・・」 と、悔しそうにナルトが俯く。

残り一人の枠は、まだ適任者が見付かっていないらしい。

シズネさんがいろいろと動いてくれてはいるが、この様子では、メンバーが決定し私達と合流するまでに、数時間掛かってしまうかもしれない。

せっかちなナルトが、そんな悠長に待っていられる訳ないのは、誰の目にも明らかだった。



「オレ達だけでも大丈夫だよな!?な!?カカシ先生!」

「そう責っ付くなって・・・」



ナルトの性格を知り尽くしているカカシ先生は、半ば諦め顔でいろいろと思案に暮れていた。

私達と気心が知れていて、且つそれなりに連携を取れる忍がいない訳ではない。

だが生憎彼等は、他の任務で現在里を空けてしまっているらしかった。

そうなると、初顔合わせでいきなり任務出発となるが、問題はこのナルトだった。

打ち解ければとてもいい奴だと、みんなが認める。

だが、そこに到るまでが波乱万丈過ぎて、今までどれだけの騒動を巻き起こしてきた事か・・・。

正直なところ、私も見ず知らずの人といきなり組まされ、また大騒動に巻き込まれるのなら、この三人だけの方が気が楽だと感じていた。

そんな空気を読み取ったのか、ハーッ・・・と溜息を漏らしたカカシ先生は、渋々と綱手様に出発を願い出た。



「五代目。特別に許可して頂けるんでしたら、この三人で今すぐにでも出発したいのですが」

「・・・三人で勝算はあるのか、カカシ?」

「分かりません」

「分からない、だと・・・?随分と気弱だな」

「何分、相手が相手ですからね・・・。本当は、あと一人待ちたいところなんですが・・・」

「なら、大人しく待てばいいだろう!」

「でも、待てと言われて大人しく待てるヤツじゃないでしょ。コイツは・・・」



「五代目だってご存知の筈です」 とニッコリ笑いながら、ゴチンと勢いよくナルトの頭を引っ叩いた。



「痛ってぇぇぇ!カカシ先生まで何すんだってばよぉぉぉ・・・」

「ま、これだけ元気が有り余っていれば、二、三人分の働きはしてくれるでしょうし、それに・・・」

「・・・それに?」

「それに、この二人を連れて行くのなら、余計な邪魔はいない方が、コイツ等もけじめを付けやすいでしょう。元同じチームの仲間として」

「・・・ふん・・・」



『元』 という言葉をわざと強調したカカシ先生に、ナルトがむきになって喰って掛かった。



「元なんかじゃねぇ!サスケは今でもオレ達の仲間だ!」

「ああはいはい、そうだったな」



あやふやな笑顔でナルトを軽くあしらいながら、「よろしくお願いします」 と改めて綱手様に願い出る。

慌てて、私もカカシ先生に倣った。

「ほら、アンタも!」 頭を下げながら、思いっきりナルトを睨み付けた。

ブチブチと不満そうなナルトも、「よろしくってばよ・・・」 と、そっぽを向きながら一応頭を下げたようだった。



「そういう訳で、このメンバーで今すぐ出発する許可をお願い致します。五代目」

「まったくお前等は、揃いも揃って・・・」



「明らかにアタシの人選ミスだな」 苦虫を何十匹も噛み潰したような綱手様が、眉間に皺を寄せたままドスンと背凭れに寄り掛かる。

赤く縁取られた唇をへの字に曲げ、暫くの間、あれこれ思考を巡らせていたようだったが、



「分かった・・・。好きにしろ」



重々しく火影印を手に取ると、諦めたように指令書に押印した。