――― farewell vibrate 2nd ―――
新緑の若葉が風にそよぎ、風が仄かに甘く薫った。
キラキラと降り注ぐ木漏れ日。
のんびりと往来を行き交う人々。
綱手様の使いで街に出ていた私は、手早く用事を済ませると、急いで丘の上にある小さな公園へ足を運んだ。
一段飛ばしに階段を駆け上がる。
ここの天辺にある展望台。
そこは私のお気に入りの場所。
慌てて空を見上げると、太陽はちょうど私の頭上で燦々と輝いていた。
「良かった・・・、間に合ったぁ・・・」
肩で大きく息を整えながら、銀色のフェンスに勢いよく身を乗り出した。
ここからだと、里の大門が一望できる。
任務を終えたカカシ先生達が、もうすぐそこを通り、里に戻ってくる予定だった。
(先生に逢うの、何ヶ月ぶりだろうな・・・)
木の葉屈指の超売れっ子上忍はたけカカシともなれば、いろいろと依頼も多い。
命に係わりかねない怪我だったとは言え、いつまでも休んでいる訳にはいかないようだった。
あの後、なんとか身体を動かせるようになったカカシ先生は、すぐに任務に駆り出されて、あっという間に木の葉からいなくなってしまった。
結局、退院祝いの言葉も何も、掛けられずじまいだった。
それから今日までの間、先生は何度も里を出たり入ったり・・・を繰り返しているらしい。
らしいと言うのは、私自身が全然カカシ先生に逢っていないから。
私もそれなりに医忍としての実力を認めて貰えるようになり、いろいろな隊のサポートに付いて回る事が多くなった。
しかも、巡り合わせが悪いのか、私が戻ると先生は出掛けていて、先生が戻ると今度は私が出掛けている・・・の繰り返し。
ずっと気にはなっていたけれど、さりとてどうする事もできず、時間ばかりがつれなく過ぎていった。
そして今日、ひょんな事からカカシ先生の帰還を知った。
だが、正式に医療班に配属されている今、以前のように綱手様の間近で、修行の傍らカカシ先生の姿を垣間見る事は叶わない。
カカシ先生の事だから、報告書を出し終えたらすぐに次の任務に行ってしまうだろう。
どうにかして、カカシ先生と逢えないかな・・・。
目に見えてそわそわし出した挙動不審の私に、先輩格の中忍が 「綱手様が呼んでいる」 と声を掛けてきた。
「あーもう!こんな時に限って・・・」
きっと次の任務の指令だろう。
またこれでカカシ先生とすれ違いだ・・・。
あからさまに落胆しながら、火影室の分厚い扉をノックした。
「失礼します・・・」
「ああサクラ、忙しいとこスマンな」
全然すまなそうにしていない綱手様が、なにやら小さな紙切れを手にしているのが見えた。
指令書にしては小さすぎるな・・・と、訝しく思いながら傍に寄ると、
「悪いが、大至急これらの品々を買い揃えてきてくれるか?」
「は、はい・・・」
コチャコチャと書き込まれたメモ書きを渡された。
それには、医療現場では必要不可欠な薬品やら薬草やらの名前が、ずらずらと載っていた。
でも、取り立てて、大至急必要としているものではない。
倉庫の薬品棚を探せば、まだ在庫も残っていた筈だし、それにわざわざこちらから出向かなくても、頼めば業者が配送してくれるものばかり。
なんでこんな物を・・・と、メモを片手に考え込んでしまった。
「なにぼーっと突っ立ってんだい。早く買いに行っといで」
「え・・・。でも師匠、まだこれ在庫が・・・」
「在庫・・・?ああ、在庫は別に構わん」
「構わなくないですよ。買いにいくより早いじゃないですか。・・・えっと、師匠がお使いになるんですか?じゃ、今すぐ取ってきます」
「あー待ちな!アタシは新鮮なのが必要なんだ!・・・とにかく、さっさと買ってきな!」
各隊の予定表にチラッと目配せした綱手様が、苛付いたように声を張り上げる。
いい加減気付けと言わんばかりの目付きに、さすがの私もハッと閃いた。
あ・・・、なるほど。
「あ、ありがとうございます!すぐ行ってきます!」
喜び勇んで部屋を飛び出そうとする私に、「使いを頼まれて礼を言う馬鹿がどこに居るんだい」 と、冷やかしの声が掛けられる。
えへへへ。何とでも言って下さい、師匠。
正規部隊から離れている現在、特別な理由なしにむやみに外出する事は禁じられていた。
でもこれで、堂々と街中を歩き回る事ができる。
大っぴらに外出の許可を貰い、ピョンピョン飛び跳ねるように、私はアカデミーを後にした。