次の日――

我が物顔でベッドを占領しているカカシ先生の腕をするりと抜け出し、起こさないように静かに身支度を始めた。
今日は報告書を提出するだけって言ってたから、ゆっくり寝てても大丈夫だろう。

(私も、今日は資料整理だけだし・・・)

早めに仕事を切り上げて、今日こそ美味しい食事を作ってあげよう。
だから朝ご飯はトーストとコーヒーで勘弁してね・・・。
テーブルに転がるコインを握りしめ、依然爆睡中の先生のおでこに“行ってきます”の挨拶をチュッと残して、元気良く外に出る。

「うーん・・・、いいお天気!」

ワクワクするようなクリスマスの朝だった。



―・―・―・―・―・―・―・―・―



「鬼気迫るものがあるよ・・・」

周りのみんなが呆れているみたい。
でも、一分一秒でも早く終わりたいのよ。
たかが資料整理。されど資料整理。やるからにはきちんとやり遂げないとね。
周りの目なんて気にしてられないわ。
髪を振り乱し鼻息を荒くして、とにかく脇目も振らずに頑張った。
その甲斐あって、夕方前には無事仕事が片付いた。



そしてその帰り道。
パンパンに膨らんだスーパーの袋を抱えて大通りを歩いていると、昨日と同じ場所でサンタクロースがケーキの街頭販売をやっていた。

(あ、昨日のお礼言わなくちゃ)

すすっと近付いてみると、昨日のおじさんとは全然似付かない若いお兄さんが子供たちに風船を配っている。

「あのぉ・・・」
「あっ、いらっしゃいませ!」
「すみません。昨日ここにいた方は・・・」
「はい?」
「あ・・・、えーと、昨日ここで別の方から可愛らしいブッシュ・ド・ノエルを買ったんですけど、今日はその方は・・・」
「・・・・・・ブッシュ・ド・ノエル・・・ですか?」
「はい」
「ここで、ですか?」
「はい」


あれ・・・?
なんかお兄さん困ってるんですけど・・・。なんで?


「あの・・・、どこか他所のお店と間違ってらっしゃいませんか?」
「え?」
「ご覧の通りうちはイチゴのホールケーキしか扱ってませんので・・・。それに、昨日も今日もここにいたのは僕だけですが・・・」
「・・・えぇ?」

慌ててキョロキョロと辺りを見回す。
でも、何回見直しても間違いない。
確かにこの場所だった。
ワゴンに飾られてるケーキも同じだった。
プカプカ浮かぶ風船だって昨日とまるで同じだった。
大体他のお店と間違えようにも、他にケーキを街頭販売しているところは一軒もない。

「うそ・・・。絶対ここなのに・・・」
「うそとおっしゃられても・・・」

じゃあ、昨日のあのケーキはなんだったの・・・?
私は誰からあのケーキを買ったのよ・・・?

狐につままれたようにポカンと突っ立っている私を、お兄さんが困ったような申し訳なさそうな胡散臭そうな複雑な目で眺めている。
ハッと我に返ると、ケーキを物色していた他の人たちも、好奇心旺盛に私の事をジロジロ見詰めていた。

「ご、ごめんなさい!勘違いでした!」

急に恥ずかしくなり、真っ赤になってその場を後にしたのだが・・・。


うそうそうそ。
分かんない、分かんない。
いくら考えても分かんない。
昨日のおじさんは、いったい誰?あのケーキとコインはどういう事?
頭の中がグルグル渦巻いて、何が何だかさっぱり分かんない・・・。


その時、アカデミーの校舎から時刻を告げる鐘の音が響き渡った。

「あっ、いけない!」

こんな事してられない。急いで帰らなくちゃ。
きっとカカシ先生がお腹を空かせて待っているはず。


袋を抱え直して家まで急ぐ。
早く、早く、早く。
一秒でも早く先生の元に辿り着きたい。
ポケットのコインが、ピョンピョン弾んで笑ってる。
私も負けずににっこり笑って、夕暮れの街を駆け抜けた。




謎は未だに謎だけど、きっとこれはクリスマスの奇跡。

メリークリスマス、サンタのおじさん。
素敵なプレゼントをありがとう――




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